比較サイトから問い合わせは来る。それでも、なぜ事業は強くならないのか
問い合わせが来ないわけではありませんでした。足りていなかったのは、その中身です。比較・見積りサイト経由で届く相談は相見積もりが中心で、成約まで残りにくく、紹介手数料も利益を削ります。東京都千代田区・大手町エリアで複数の会場を運営する貸し会議室・イベントスペースの公式サイトで、私たちが最初に向き合ったのは、検索順位ではなくこの集客構造でした。市場調査とポジション定義から、情報設計、UI/UX、SEO内部設計、広告、計測、運用まで、ひとつながりで設計し直しました。
誤解のないように書いておくと、比較・見積りサイトが悪いわけではありません。まだ知られていない施設にとっては、出会いの入口として確かに機能します。ただ、集客の大半をそこに預けたままにすると、自社の会場は条件と価格が並んだ一覧の一行として扱われ、届く問い合わせも「同じ条件で他にいくらのところがあるか」を確かめるためのものが中心になります。決まる確率は上がらず、決まっても手数料が乗る。そして誰が何のために借りようとしているのかは、最後まで自社の手元に残りません。
もうひとつ、見落とされやすい負担があります。公式サイトが会社案内やパンフレットに近い「カタログ」の位置に留まっていると、具体的な相談はどうしても電話に戻ってきます。人が受けて、聞き取って、折り返す。この体制は問い合わせが増えるほど重くなります。つまりここで起きていたのは、問い合わせの件数の問題ではなく、検討と意思決定がどこで行われているかという問題でした。
大手町という市場で、価格でも立地でも差はつかなかった
設計に入る前に、私たちはまず市場と競合を調べました。大手町・東京駅周辺は、貸し会議室・イベントスペースの領域では全国でも競争性が高いエリアです。業界のなかでもWebサイトに強く投資している競合が多く、「貸し会議室」という一般的な訴求をどれだけ丁寧に書いても、それだけで差がつく市場ではありませんでした。だからこの案件は、ページを作り始める前に「何で選ばれる施設なのか」を決めるところから始まっています。
調査のなかで、価格競争力が非常に強い競合施設が一社あることも分かりました。そこで私たちは、価格だけで勝ちにいくことをやめています。値段の勝負に乗れば、比較サイトの一覧と同じ土俵に戻るだけだからです。代わりに必要だと判断したのは、予約が決まってから利用が終わるまでのあいだ、借りた側がどんな体験をするのか——その質と、施設としての総合力を、Webで伝わる形にすることでした。
立地についても同じ整理をしました。この領域は、駅に近ければそれで選ばれるという市場ではありません。規模の大きな催しや、機材や進行に条件のある使い方になるほど、当日を支える専門家のサポートが効いてきます。今回の施設はそこが充実していました。ですから、アクセスの良さを強調して終わるのではなく、利用を支える人の存在まで読み手が理解できるようにすることを、設計の目標に含めました。
こうして定めたポジションが、好立地・高品質・価格競争力の三つです。東京駅から徒歩5分以内で、大手町駅に直結していること。設備と内装の品質。そして品質に対して比較的リーズナブルであること。ここに、利用体験の質と専門サポートという軸を重ねました。この判断を、情報設計にもUI/UXにもSEOにも広告にも、同じ言葉で通していきます。
大量の施設情報を、「探させない」ための設計へ組み替えた
この施設は、建物のなかに複数の会場があり、会場ごとに仕様も用途も料金も違います。研修に使う人、セミナーを開く人、展示会や懇親会で使う人では、そもそも確かめたいことが違う。その全部を一枚のページに載せると、情報は揃っているのに必要なものが見つからない状態になります。探す負担が増えるほど、問い合わせようという気持ちは削れていく。だから私たちは、一ページに全部載せない、と最初に決めました。かわりにトップページの上部には主要な施設特徴を置き、細部まで読み込まなくても、流し見でどんな施設かが残るようにしています。
そこから先は、地味な判断の積み重ねです。何を先に見せ、何を後ろに回すか。どの情報をどの粒度で書くか。一ページが抱える情報量にどこで上限を引くか。詳細をどの下層ページへ渡すか。そして、いま見ている情報の次にその人が知りたくなるのは何かを予測して、到達する順序を決めていく。この整理は、結果としてSEOの側にも効きます。下層ページがそれぞれ別の検索意図を受け止められる構造になるからです。人にとっての探しやすさと、検索からの入口を増やすことが、同じ一つの情報設計から出てきます。
ひとつ、意識して独自性を抑えた場所があります。会場ごとの基本情報の見せ方です。この業界のサイトには、収容人数やレイアウト、面積や設備を確認するときの、利用者がすでに見慣れた共通の形があります。ここで独自のUIを持ち込むと、読み方を一から覚えてもらうことになる。私たちはあえて業界標準的な見せ方に合わせました。独自のUIが常に良いわけではありません。すでに理解されている比較の形を使うほうが、見やすく、比べやすい。差をつけるのは、そこではないという判断です。
UI/UXは、ユーザビリティテストで集めた定性データをもとに詰めました。問い合わせへの導線もそこから決めています。どのページを見ていても、その人自身のタイミングで問い合わせへ進めること。検討の途中で押し切るのではなく、決めようと思った瞬間に手が届くところにあること。この二つを満たす形にしました。
もうひとつ用意したのが、実績を載せていく場所です。どんな催しに使われたかは、これから借りる人にとって最も具体的な判断材料になります。ただ、それは一度作って終わりの読み物ではありません。だから実績はCMSで無理なく更新できる形にして、使われるたびに信頼の材料が積み上がっていく構造にしました。
制作で終わらせず、広告・計測・運用まで一本の線にした
この案件を振り返って、いちばん価値があったと感じているのは、個別の施策がうまくいったことではありません。SEOの内部設計、情報設計、UI/UX、ポジショニング、広告との統合、計測、運用。これらをワンストップで行い、点を線にしたことです。
ばらばらに発注すると、何が起きるか。調査で決めたポジションが制作の現場まで届かず、SEOは出来上がったページに後から足す作業になり、広告はサイトとは別の言葉で語りはじめ、計測は公開してから慌てて入れることになります。一つひとつは間違っていなくても、全体としては噛み合いません。今回は、市場調査で決めた「何で選ばれる施設なのか」を、そのまま情報設計の優先順位に、UIの並びに、下層ページの構成に、広告の訴求に、そして計測する指標に落としていきました。効いたのは、まとめて任せていただいたこと自体ではありません。市場調査から運用まで、同じ判断基準を切らさなかったことです。
計測を線のなかに入れたことで、設計が想定どおりに使われているかを、感想ではなく記録で確かめられるようになりました。GA4のファネル分析では、トップページで止まらず下層ページまで届いていることを確認しています。ヒートマップでは、設計時に想定した順序と一致する操作が記録されていました。問い合わせ数の変化も含め、公開後のデータを次の改善判断に使える状態になっています。この画面のこの配置が問い合わせを増やした、と言い切れるものではありません。同じ時期には広告も動いています。それでも、意図した設計が実際にどう使われているかを、推測ではなく手元の記録で見られるようになりました。
そして運用です。サイトは公開した時点が完成ではありません。この施設は更新の頻度が多いのですが、いまも無理なく更新と運用が回っています。誰が触っても情報の粒度が崩れない形を先に決めておくことは、公開後にじわじわ効いてきます。
公式サイトが、カタログから営業の基盤に変わった
変わったのは、問い合わせの中身です。以前は比較ポータル経由の相見積もりが中心でした。いまは、空室状況の確認や、使うことを前提にした具体的な相談が届いています。そして公式サイトから直接入る問い合わせでは、成約までの歩留まりも改善しました。
問い合わせの入口も、電話中心からWeb中心へ移りました。必要な情報を自分で確かめてから問い合わせられる人が増えると、電話で一から説明する場面が減ります。コールセンターの運用は負担の大きい仕組みですから、この変化は問い合わせのしやすさだけの話ではなく、事業側の運用コスト構造にとっても意味があります。
営業の現場でも変化がありました。以前はカタログを開いて説明していたところを、いまはWebサイトを見せながら説明できます。同じ画面が、説明の道具であり、検討中の相手が自分で見比べる場所であり、そのまま問い合わせへ進める入口でもある。公式サイトの役割が、載せておくものから、使うものに変わりました。
クライアント企業からも、取引のあるステークホルダーからも、「使いやすくなった」という声を受け取っています。あわせて、問い合わせの動きをGA4で目に見える形で追えるようになったことで、何が起きているかを社内で共有できるようになりました。感覚で語られていたことが、共通の材料の上で話せるようになったということです。
比較サイト依存から抜け出すために、まず見直したいこと
もし比較・見積りサイト経由の集客が大きな割合を占めているなら、まず件数ではなく中身を見てください。届いている問い合わせが相見積もり中心なら、それは自社が価格と条件で並べられているというサインです。ページを増やす前に、価格と立地以外で選ばれる理由を、自社の言葉にできているかを確かめてみてください。
そのうえで、公式サイトが説明の場所になっているかを見てください。カタログのままなら、具体的な検討はどうしても電話や相見積もりへ戻ります。順番としては、作り直すことよりも、何で選ばれる施設・会社なのかを決めることが先です。決まっていれば、情報設計もSEOも広告も計測も、同じ方向に置けます。逆にそこが決まらないまま個別に発注すると、どれだけ費用をかけても、線にはなりません。
ここでお話しした考え方は、貸し会議室に限らず、席や枠や部屋といった在庫を売る事業に、そのまま応用できます。どこから手をつけるか迷われたら、気軽にご相談ください。